ヘリコバクタピロリ(ピロリ菌)の除菌療法

歴史

胃内は酸度が強く、食物中の細菌は死滅し生存できないと信じられてきました。1983年オーストラリアのMarshallとWarrenが胃内にらせん状の菌(ヘリコバクタピロリ菌、以後ピロリ菌と略します)を発見、培養に成功し、その細菌を飲用し急性胃炎を発症させました。     ピロリ菌と各種胃疾患の関係がしだいに明らかになり、その功績でもって二人の博士は1995年には米国医学賞であるラスカー賞、2002年慶応医学賞、2005年にノーベル医学生理学賞を受賞されました。 日本では北海道大の浅香正博 特任教授が「胃がん撲滅計画」としてすべてのピロリ菌胃炎に対する除菌療法を普及させた功績でもって、2013年に国際学会で最高のマーシャル・ワレン賞を受賞されました。
    
ピロリ菌の特徴


胃の粘液中に生存し、べん毛を持って移動し、強力なウレアーゼ活性を有し、アンモニアや毒素を産生し 胃粘 膜を傷害し胃・十二指腸の種々の病気を引き起こします。

疫学
 感染経路は十分解明されていませんが、胃の酸度が弱く免疫が未熟な幼小児期に、口移しによる母子感染や食品や水を介した経口感染(ハエが媒介?)が推定されています。感染率は衛 生環境の悪い開発途上国で高く、先進国で低いです。日本では若年者では10-20%ですが40歳以上では70%以上の感染率です。ピロリ菌陽性者の中で 消化性潰瘍は2-3%、胃癌は年間0.4%の発症率ですが、一生でみると約10%の危険率と推測されています。

ピロリ菌の関与する疾患
  • 胃・十二指腸潰瘍(特に再発性、難治性のもの)
  • 慢性萎縮性胃炎、肥厚性胃炎、びらん性胃炎
  • MALTリンパ腫
  • 胃腺腫、胃癌、胃ポリープ
  • 逆流性食道炎
       

    胃以外で関与の疑われる疾患

  • 慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、皮膚掻痒症
  • 特発性血小板減少性紫斑病
  • 胆石症、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎
  • 虚血性心疾患
  • ギラン・バレー症候群
  
ピロリ菌と胃癌

  • 健常人に比べ胃癌患者でピロリ菌の陽性度が高く、因果関係が研究中ですが、ピロリ菌は食塩と同じく慢性的に胃粘膜の炎症を起こすことと胃粘膜細胞の遺伝子に直接変異を起こす機序による発癌が考えられています。

  • 日本ヘリコバクター学会では、胃の病変の程度にかかわらずピロリ菌陽性のひとはすべて胃十二指腸潰瘍と胃癌の予防のため、ピロリ菌感染症として除菌をすべきであると勧告しています。


  • 診断
    • 抗体検査 (血清IgG抗体、尿中抗体、便中抗原)
    • 13C尿素呼気テスト 
    • 内視鏡下組織診断法
      迅速ウレアーゼテスト(ヘリコチェック)
      組織鏡検法
      組織培養法

    安価で内視鏡下生検の際、同時に迅速に診断可能

    内視鏡下生検で良悪性の病理診断と同時に判定可能

    精密ですが比較的高価で主に除菌判定に用いられます
    治療法

    1)プロトンポンプ阻害薬(強力な制酸剤):パリエット(RPZ)、タケプロン(LPZ)、

    タケキャブ(VPZ)、オメプラゾール(OMZ)

    2)抗生剤二種:サワシリン(AMPc)+クラリス(CAM)

        1)+2)の服薬を1週間継続
    • 胃・十二指腸潰瘍に対しては健康保険が認可されたため、外来で治療可能です。

    • 急性期の副作用として下痢、蕁麻疹、アレルギー症状がまれにみられる ことや除菌後6カ月程して慢性期に5-10%の人に逆流性食道炎が出現することがあります。

    • 今までの報告、経験では1週間の服薬で70〜80%の患者さんで除菌が成功し、胃・十二指腸潰瘍の再発がほとんどみられなくなります。
          
    • 初回除菌治療成功率が70%くらいに低下してきており、ほとんどがピロリ菌のクラリス(CAM)耐性のためといわれています。
          
    • 平成19年7月より二次除菌療法としてクラリス(CAM)のかわりにフラジール(メトラニダゾール、MNZ)が認可になりました。

    • 平成22年6月より潰瘍以外に胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡治療後胃におけるピロリ菌感染症に対し、保険診療による除菌療法の認可が追加されました。
       
    • さらに平成25年3月よりピロリ菌感染慢性胃炎に対し、保険診療による除菌療法の認可が追加され、今後胃癌に対する一次予防効果が期待されます。
            
    • 平成25年に発売されたタケキャブ(ボノプラザン、VPZ)は、今までのプロトンポンプ阻害薬に比し、胃酸の低下作用が早く強力なため、抗生剤の効果がより効果的です。

    • 一旦除菌に成功すると再感染はないといわれています。

    除菌判定
    • 除菌治療を終了して2-3カ月以後に、13C尿素呼気テスト、内視鏡下組織診断法、6カ月以後に血液検査(血清IgG抗体、ペプシノゲン)を総合して判定します。