メタボリック症候群
(metabolic syndrome、内臓脂肪症候群)

  • 死に到る脳血管障害や心筋梗塞、大動脈瘤など動脈硬化性疾患の危険因子(肥満、特に内臓肥満、高脂血症、高血圧症、糖尿病など)は互いに重複して合併することも多く、syndome X、死の四重奏、インスリン抵抗性症候群、内臓脂肪症候群などと呼ばれてきました。
  • 最近WHOでは、これらをまとめて、メタボリック症候群(metabolic syndrome、内臓脂肪症候群)と統一して呼称するようになりました。
  • 特に内臓肥満があるとインスリン抵抗性を基礎にいろんな代謝異常、病気が出現してきます。
  • B M I (肥満指数=体重kg/身長X身長m)が25以上を肥満といいますが、ウエスト径(腹囲)が男性で85cm、女性で90cmを超えリンゴ型肥満になると各種代謝異常が急激に増加することが知られています。
  • 日本でのメタボリック症候群の診断基準は、上記のウエスト径に加え、高脂血症(高TG血症150mg/dl以上、低HDL-chol血症40mg/dl以下)、高血圧症(130/85mmHg以上)、高血糖(空腹時血糖110mg/dl以上)の2項目以上が当てはまる場合です。
        

    肥満にともなう病気

      1.脳血管障害(脳梗塞、脳出血)

      2. 虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)

      3.大動脈瘤(解離性)

      4.糖尿病

      5.高血圧症

      6.高脂血症

      7.痛風

      8.脂肪肝(NASH)

      9.胆石症

      10. 逆流性食道炎

      11. 睡眠時無呼吸症候群

      12. 変形性脊椎症、変形性関節症

      13. 月経異常

      14. 乳がん、前立腺肥大、前立腺がん

    

[対策]

  • 現在の日本人は普通の生活では、運動不足、カロリーオーバーになりやすいです。     
  • 3食をきちんと食べ、早食いをやめる。     
  • 脂っこい食物を控え、魚や豆、乳製品、寒天などを食べる。     
  • 軽い有酸素運動(歩行、ジョッギング、自転車、水泳など)を週3回、30分以上続ける。     
  • 日常の生活でもエレベーターを控え、すぐ車に乗らずなるべく歩くようにする。     
  • 肥満の人は血圧、体重と一緒に腹囲も測る習慣にする。



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    高血圧症

    • 血圧は血管の抵抗、心臓の拍出力、血液の量で決まります。
    • 高血圧は心臓病や脳卒中の大きな要因であり、血圧をコントロールすることによりある程度予防が可能です。
    • 日本人の高血圧患者の95%は本態性高血圧症で遺伝的素因を持っています。
    • 5%くらいに二次性高血圧症(腎実質性、腎血管性、内分泌性疾患などにともなう)がみられます。
    • 患者数は1010万人、予備軍1500万人と推定されています。     

      高血圧症にともなう合併症

      種々の血管の動脈硬化にともなう疾患

    • 脳血管障害(脳出血、脳梗塞、高血圧性脳症など)
    • 心疾患(狭心症、心筋梗塞、心不全など)
    • 腎不全
    • 四肢末梢血管の閉塞性動脈硬化症、解離性大動脈瘤など

    血圧の測定

    • 血圧は安静時に上腕部で測定します。
    • 正常値は 130 / 85 mmHg です。
    • 医療機関などで測定すると高くなる白衣高血圧の人もいます。
    • 早朝高血圧は脳や心臓の発作を誘発しやすいです。
    • 治療中は定期的に1日数回、家庭での血圧の測定が望ましいです。

    高血圧の誘因

    • 塩分
    • 肥満(運動不足)
    • 喫煙
    • 飲酒
    • 寒冷

    高血圧症の治療

    1. 生活習慣の改善
    • まず塩分の制限   
    • 体重のコントロール
    • ストレスを避け、規則正しい生活

    2. 薬物療法

    • 一般的にはCa拮抗薬(ノルバスク、アダラート、ペルジピン、アテレックなど)が第一に使われます。
    • 糖尿病、蛋白尿などがある場合は腎保護作用のあるACE阻害薬(レニベース、カプトリルなど)A-U受容体拮抗薬(ニューロタン、ブロプレス、ミカルディスなど)α1遮断薬(カルデナリン、ハイトラシンなど)が使われます。
    • その他、降圧利尿薬(フルイトラン、ナトリックス)、β遮断薬(テノーミンなど)もあります。
    • 一剤で降圧効果が弱い場合は、作用機序の異なる多剤療法が行われます。
    • 長期治療になることが多いので副作用やコストを考えて服用したほうがよいでしょう とにかく血圧を測定しながら定期的に医療機関を受診し、血圧、合併症に応じた治療を継続することが必要です。

     





    脂質異常症(高脂血症)


    日本動脈硬化学会の診断基準では    
    • 総コレステロール 220 mg / dl 以上    
    • トリグリセリド 150 mg / dl 以上    
    • LDL コレステロール 140 mg / dl 以上
          (コレステロールを運搬する働き、いわゆる悪玉コレステロール)     
    • HDL コレステロール 40 mg / dl 以下
          (余分なコレステロールを回収する、いわゆる善玉コレステロール)

          のいずれかにあてはまるものを高脂血症とされていましたが、2007年のガイドラインから総コレステロールが割愛され、LDLコレステロールで代用されることになりました。また高脂血症の名前が脂質異常症と呼称されることになりました、メタボリックシンドロームの診断基準からも総コレステロールは除外されています。一般的臨床の現場では、総コレステロールは 250 mg / dl 以上が治療対象としていいように思われます。


    • 原発性高脂血症は500人に1人くらいの頻度で動脈硬化の発症頻度が高く、厳重な治療が必要です。
    • 続発性高脂血症には、糖尿病、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、閉塞性黄疸、薬剤性などがあります。
    • 脂質の測定にあたっては、食後や飲酒で上昇しますので(特にトリグリセリド)空腹時の採血検査で判定が必要です。     
    • 患者数は206万人(男性60万人、女性147万人)、30歳以上の日本人の約3割が予備軍と推定されています。

    【治療】

      メタボリック症候群と同じく

    1. 生活習慣の改善
    • 1日の摂取カロリーの制限      
    • 食事は動物性脂肪を控え、魚や植物油、野菜、果物などの食物繊維を多く摂取する必要      
    • 歩行、ジョギング、水泳などの有酸素運動を定期的に続ける


    2. 薬物療法

    • HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン製剤:メバロチン、リポバス、ローコール、リピトール、クレストールなど)副作用が少なく有効性が高いのでよく用いられます      
    • その他、ロレルコ、エラスチーム、EPL、エパデール、パントシンなども使用されることがあります。

    痛風(高尿酸血症)


    • 痛風とは血液中の尿酸が結晶化して関節内にたまり、炎症によって激しい関節痛が起こる病気です。

    • 特に肥満で活動的な男性で足の親指の関節に起きることが多いです。

    • 肉、魚介類」、卵などプリン体の多い食物の摂取により尿酸が増加しますが、アルコールや食事の総カロリーを抑えることも大切です。
                 
    • 高尿酸血症の成因は、尿酸産生過剰型(約10%)、尿酸排泄低下型(60%)、混合型(30%)の3型に分類され、尿中の尿酸/クレアチニン 比を測定することにより簡便に区別可能です。
            
    • 激しい運動をするスポーツ選手では、代謝亢進で尿酸と乳酸の合成過剰と尿への乳酸増加のため尿酸の排泄低下が起こり高尿酸血症をきたすこともあります。

    • 高尿酸血症を放置しておくと、痛風発作、皮下の痛風結節を起こしたり、尿路結石、腎障害などの合併症を引き起こすことがあります。
           
    • 患者数は100万人、予備軍500万人と推定されています。
            
    • また高血圧症、高脂血症、脂肪肝など他の生活習慣病と合併しやすく、動脈硬化から虚血性心疾患、脳血管障害につながることがあります。
       

    【治療】

    • 血中尿酸値は基準値で7.0 mg/dl、8.0以上で食事療法に加えて薬物療法が行われます。
           
    • 尿酸排泄促進薬(ユリノームなど)、尿酸産生抑制薬(ザイロリックなど) また尿路結石予防に尿アルカリ化薬(ウラリット)

    • 40年ぶりに開発された選択的XOD阻害薬であるフェブキソスタット(フェブリック)は有効で使いやすい薬です。  

    糖尿病


    血中から細胞に糖を取り込む働きをする膵臓のホルモンであるインスリンが不足し、高血糖、尿糖を呈する状態です。

    • 1型糖尿病は膵β細胞がウイルスや自己免疫の機序で破壊され、インスリンの分泌が低下した状態で、若年者に時々みられ生涯にわたってインスリンの注射が必要です。その頻度は日本人で糖尿病患者の5%以下です。
    • 大部分は成人にみられる2型糖尿病で、過食、肥満、運動不足を基礎に成人後に発症し推定患者740万人、予備軍を入れると1620万人とも言われ、日本人10人に1人以上です。
    • 人類は飢餓に耐えるように進化してきました。特に日本人は農耕民族で節約遺伝子が多く、少しの過食、肥満、運動不足で糖尿病を発症しやすいと言われています。
    • 患者数は950万人、予備軍1100万人と推定されています。
     

    【診断】

        
    • 尿糖と高血糖(空腹時 126 mg / dl 以上、随時血糖 200 mg / dl 以上)   
    • HbA1C 6.5 %以上   
    • 糖負荷試験で2時間値 200 mg / dl 以上

    【合併症】

       高血糖の結果、全身の大小の血管に動脈硬化を引き起こします。合併症があるから 糖尿病が重要で治療の必要があると言っても過言ではありません。

    1.大血管合併症    
    • 虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)    
    • 脳血管障害(脳梗塞、脳出血など)    
    • 閉塞性動脈硬化症(下肢壊疽など)    
    • 解離性大動脈瘤

    2.細小血管合併症
          
    • 糖尿病性網膜症(眼底出血、失明)
    • 糖尿病性腎症(腎不全→人工透析)     
    • 糖尿病性神経症(しびれ、めまい、感覚鈍磨)






    【治療】

       1. 食事療法   カロリー制限、バランスのとれた食品

       2. 運動療法   歩行、ジョギング、水泳などの有酸素運動を定期的に続ける

       3. 薬物療法     

        @ 血糖降下薬 
         
      • SU製剤(膵からのインスリン分泌を刺激:ラスチノン、グリミクロン、ダオニール、アマリールなど)   
      • α-グルコシダーゼ阻害薬(小腸からの糖吸収を遅らせる:グルコバイ、ベイスンなど)   
      • ビグアナイド剤(肝臓での糖新生を抑制:ジベトス、メルビンなど)   
      • チアゾリジン誘導体(インスリン抵抗性を改善:アクトス)        
      • 速効型インスリン分泌促進薬(膵からのインスリン分泌を刺激:SU製剤より吸収、血中からの消失が速い:ファステイック、スターシス、グルファスト)
      • インクレチン(消化管ホルモンGLP-1,GIP)(膵β細胞からからのインスリン分泌を刺激と膵α細胞からのグルカゴン分泌を抑制):DPP-4阻害薬(ジャヌビア、グラクティブなど)GLP-1受容体作動薬(ビクトーザ)     

           A インスリン製剤    
              
        • 初期には家畜や動物由来の製品でしたが、最近は遺伝子組み換えによるヒトインスリンの合成製剤が使用されています。     
        • 超速効型、速効型、混合型、中間型、持続型など作用時間による種類があります。     
        • 注射器もペン型で自己注射がしやすくなっています。     
        • 自己注射も可能ですが、注射の量、部位に注意し自己血糖測定をしながら低血糖に注意が必要です。


    【図の引用】

          
    • あなたの動脈硬化 監修:松澤佑次(大阪大学)企画・制作:ファーマインターナショナル        
    • 循環器スーパーイラストレーッション 監修:矢崎義雄(東京大学) 企画・制作:ファイザー製薬
    • 特集:肥満症 medicina vol.42 2005 井上修二他 (共立女子大学)        
    • あなたの高血圧治療 監修:吉永 馨(東北大学) 企画・制作:ファーマインターナショナル        
    • あなたの糖尿病 監修:南條 輝志男(和歌山医科大学) 企画・制作:ファーマインターナショナル