薬剤による肝障害
- アレルギー機序によるものが多く、解熱鎮痛薬(ピリンなど)抗生物質(ペニシリンなど)や抗がん剤が比較的頻度が高いです。
- 最近は漢方薬や健康食品(ウコン、やせ薬など)によるものも時々みられます。
- 自覚症状は全身倦怠感、発熱、食欲不振、褐色尿、黄疸、皮疹など急性肝炎と同じです。
- ウイルス性肝炎や他の肝胆道疾患の除外診断と1ヶ月以内の薬剤の服用歴が重要です。
- 末梢血中の好酸球増加、Ig Eの高値、薬物リンパ球刺激試験(DLST)が参考になります。
- 治療は一般の急性肝炎と同じく、安静と点滴などの対症療法と原因となる薬物をできるだけ早く中止することです。
- 原因薬物の中止するのが遅れると死に至ることもあります。
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自己免疫性肝炎
- 慢性肝炎の10%以下で、中年以降の女性に時々認められ、発症に自己免疫性の機序が考えられています。
- 診断は慢性肝炎としての肝機能異常(GOT、GPT、γ グロブリンの上昇)、抗核抗体や抗平滑筋抗体などの血中自己抗体陽性、肝炎ウイルス陰性
、肝生検所見などを総合してなされます。
- 他の自己免疫性疾患(慢性甲状腺炎など)膠原病などが合併する場合もあります。
- 病変は進行性であり、ウルソデオキシコール酸(UDCA 、ウルソ)や副腎皮質ホルモン(ステロイド)、時に免疫抑制薬が治療薬として使用されます。
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原発性胆汁性肝硬変(PBC)(原発性胆汁性胆管炎)
- 日本で約12000人の患者数(1万人に1人)と稀な病気です。中年以降の女性に多く、たまたまの健診での肝障害(ALP、γ GTPなどの胆道系酵素の異常)で発見されることも多いです。
- ほとんどの場合、無症候性で生涯にわたって進行せず、肝硬変の病名に値しない病態です。
- 消化器病学会では2016年より原発性胆汁性胆管炎と呼称するようになりました。
- 皮膚掻痒感や黄疸を伴う症候性の場合は、難病としての特定疾患の対象になり、進行すると重症黄疸、腹水、食道静脈瘤破裂などの肝不全症状を起こします。
- 診断は血液検査で抗ミトコンドリア抗体、Ig M の高値と肝生検で慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)や細胆管消失所見が認められることで確定します。
- 治療は胆汁排泄を促進するウルソデオキシコール酸(UDCA、ウルソ)が有効です。
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肝嚢胞
- 人間ドックなどで腹部エコーを行った際、時々、肝に嚢胞性病変が見つかる場合があります。エコーで見つかる肝占拠性病変の過半数が嚢胞といわれています。
- 胆管や血管との交通はなく、小さくて無症状のものは放置してよいです。
- 肝嚢胞が巨大となり腸管への圧迫症状が出現したり、嚢胞内に出血や感染を伴う場合にはエコーガイド下の穿刺排液、エタノール注入、手術などが行われることもあります。
- その他、腎臓、膵臓、脾臓、卵巣などにも嚢胞が合併することもあります。
腹部エコー、CT 検査で肝の両葉に多発性の嚢胞を認め、一部は胃に接している。
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膵嚢胞
- 胃の背部に位置する膵臓にできる嚢胞性病変で、膵管と交通を有する膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と交通を有しない粘液性嚢胞腫瘍(MCN)、漿液性嚢胞性腫瘍(SCN)、外傷、膵炎後の仮性嚢胞などがあります。できる場所と大きさにより胃・十二指腸などに圧排所見を呈します。
- 胃検診を契機に見つかった粘液性嚢胞腫瘍症例:39歳 女性 自覚症状なく初めての胃透視にて胃外性圧排像を指摘。血液生化学、 腫瘍マーカー:異常なし。後に手術にて膵の粘液性嚢胞腺腫と判明。
胃透視で大きな胃外性圧排像。胃内視鏡検査で胃体部後壁に平滑な腫瘍による内腔狭窄像。
腹部エコーで、左上腹部に約12cm径の多房性嚢胞性腫瘍像。腹部MRI検査にて膵体部に、厚い被膜を有する粗大な多房性嚢胞性腫瘍が見られ周辺臓器を圧排している。
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肝血管腫
- 肝血管腫は肝の良性腫瘍の中で最も頻度が高く、人口の1−5%の人が持っているといわれ、女性に多いです。
- ほとんどが海綿状血管腫で1−3cmで単発することが多いのですが、時には10cm以上の大きさになることもあります。
- ほとんどは無症状で、健康診断や人間ドックの際に腹部エコーで発見される事が多いです。
- 小さい時は腹部エコーで均一な高エコーを呈し、大きくなって血流停滞や血栓形成が出現すると地図上やモザイク状となります。特に慢性肝疾患に合併すると、肝細胞癌との鑑別が問題になり腹部CT検査や血管造影検査など他の画像診断も必要となります。
- 小さな結節の場合、MRI検査で特徴的な高信号を呈し診断の決め手となります。
- 一般的には6ヶ月から1年に1回の腹部エコーで経過を観察する事になります。
- 肝血管腫が巨大になり、腹痛や出血、破裂などの危険が生じた時に手術が必要になります。
腹部エコーで高エコーの腫瘍像 |
腹部MRI検査で同部位は高信号 |
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HBVキャリア(B型肝炎ウイルス保有者)
- 日本においてB型肝炎ウイルスの保菌者(キャリア)は1−2%、約130万人で大部分は無症候性健康保有者です。欧米では0.1%、アジア・アフリカでは10−20%で、日本はその中間に位置します。
- このHBVキャリアの大部分は出産や乳幼児期に母親からの垂直感染によります。
- 現在ではワクチンやグロブリンの注射によってその母児感染がほとんどなくなりつつあります。
- このHBVキャリアは大部分は無症候性のままですが、約10% の人が自覚症状のないまま知らないうちに慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌に進行することがあります。
- 無症候性のHBVキャリアであっても、白血病の治療や臓器移植で抗がん剤や免疫抑制剤を投与されるとHBウイルスの再増殖を起こし、まれに劇症肝炎を起こすことがあります。
- よってHBVが陽性と分かった人は1年に1回は専門の医療機関を受診し、慢性肝炎になっていないかを調べた方が安全です。
- 他人に感染させないように、医療機関、歯医者さんを受診する時には、自己申告をし、また献血をしてはいけません。
B型肝炎の自然経過と肝細胞癌(慢性肝炎の治療ガイド2008より引用) |
B型慢性肝炎
- B型慢性肝炎の診断は採血でHBs抗原が陽性の場合、肝機能検査(GOT,GPT,γGTP,TTT,ZTT,蛋白のγglobilinなど)を測定します。
- またHBe抗原、HBe抗体、HBVDNAを測定しウイルスの活動性、量を調べます。
- さらに画像診断(腹部エコー、腹部CT、腹部MRI)と腫瘍マーカー(AFP、PIVKAU)採血で肝臓に腫瘍が合併していないかの検査が必要です。
- B型肝炎ではDNAウイルスを完全に駆除はできない。ウイルス量を減らし臨床的治癒を目指す。
- 頻度はC型肝炎に比べ非常に低いですが、B型肝炎の場合、肝炎の進行度に関係なく突然肝腫瘍が出現することがあります。
- 慢性肝炎の程度とB型肝炎ウイルス量により、抗ウイルス療法としてインターフェロンの注射、経口薬でラミブジン(ゼフィックス)、アデホビル(ヘプセラ)、エンテカビル(バラクルード)の核酸アナローグ治療法があります。薬剤耐性株の出現や効果よりして、今後経口薬としてはエンテカビル(バラクルード)が主に用いられるようになると思われます。
- 最近B型肝炎の核酸アナローグ治療に対し公費の補助が認可になり費用を気にしなくてよくなりました。
デノボ肝炎
- リウマチ、各種癌の治療などで免疫抑制薬や化学療法後にHBVの再活性化を起こし劇症肝炎を起こすことがあります。これをデモボ肝炎とよびます。
- よって免疫抑制療法や癌化学療法前にB型肝炎ウイルス量や抗体測定を行い、陽性であればHBVの再活性化予防のためエンテカビル(バラクルード)などの核酸アナローグ製剤の併用が必要です。
C型肝炎
[疫学]
- C型肝炎ウイルス(HCV)は55-65nmのフラビウイルス類似の約9400塩基よりなる一本鎖RNAウイルスです。
- ほとんどは血液を介した感染で、医療行為(注射、鍼治療)や刺青などでも感染します。
- HCVが発見される前の輸血後の非A非B型肝炎の90%、散発性の非A非B型肝炎の30-40% がC型肝炎と推定されていましたが、最近は新しいC型肝炎の発症はほとんどなくなりました。
- 夫婦間や母児感染は1% 以下、医療従事者の針刺し事故で1-2% 以下、長期血液透析患者では20% 前後の感染率といわれています。
- 一旦感染すればB型肝炎ウイルスキャリアと異なり、大部分が長い年月を経て慢性化する可能性が大です。
- B型肝炎に比べ圧倒的に肝細胞癌になりやすく、特に70歳以上で高度の慢性肝炎や肝硬変になってからの発癌が多い。
- 一般人口のキャリア率:1.2% 144万人 (ウイルス量 106/ml以下)
B型肝炎ウイルス 1.5% 約150万人 ( 同 1010/ml)
慢性肝炎 |
肝硬変 |
肝細胞癌 |
200万人 |
20万人 |
3万人 |
( HBV+ 15% HCV+ 80% その他 5% )
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[診断と測定法の意義] 従来の他のウイルス検出法である、直接ウイルス粒子の検出や抗原
抗体反応では特定できず、ウイルス遺伝子の核酸の一部を増幅して 間接的に検出する方法です。
1.HCV抗体
現在第二、第三世代HCV抗体が主に使用されます ----------------------HCV感染の有無の検査
2.HCVコア抗体(C22-3)
低抗体価------過去のHCV感染の既往またはIFN治療後HCV消失 高抗体価------現在もHCVの持続感染が続く
- 最近は直接HCVRNAを測定するため、検査はされなくなりつつあります。
3.HCVRNA
- genotype コアを更にPCRで4型に分類
日本人(Ta 0% Tb 70% Ua 20% Ub 10%)
- serotype NS4を特異抗体(ELISA法)で2群に分類(HCVの群別)
日本人(Group T70% Group U30%)
- HCVRNA------直接HCVRNAを測定する方法で確実だがやや高価。今までは定性法(アンプリコア法)、定量法のアンプリコア法、DNAプローブ法を使い分けしていましたが、新しい高感度の定量法(TaqMan法)で1.2〜7.8LogIU/mlまですべてカバーできるようになりました。今後この方法でIFN治療効果や持続感染の判定がなされると思います。
[治療]
- 初期には抗ウイルス薬として有効なのはIFN (インターフェロン)の注射のみでしたが、最近は新しい経口薬がどんどん開発されてきています。
- 今までのIFN の著効率約35%でしたが、最近のPEG-IFNとリバビリンとの併用療法にて50%以上の著効率が得られ、週1回の注射で治療しやすくなりました。
- 有効性にウイルス量とgenotype( serotype )が関係します。
- IFN治療により慢性肝炎の進行がとまり、ひいては肝癌発生の予防になるといわれています。
- 最近IFN の治療に対し公費の補助が認可になり費用を気にしなくてよくなりました。
[インターフェロンの副作用]
- 投与初期に発熱、全身倦怠感などのインフルエンザ様症状は必発です。
- 消化器症状としては食欲不振、嘔気などがあります。
- 血液障害として白血球減少、血小板減少、貧血も出現します。
- 出現頻度は多くありませんが抑うつ症状、間質性肺炎、眼底出血などには注意が必要です。
- 漢方薬の小柴胡湯との併用は禁忌です。
- 70歳以上の高齢者では副作用が出やすいので一般的に投与はされません。
[インターフェロン治療の変遷]
- 1992年 IFN単独 週3回注射 24週間 ウイルス陰性化率(SVR) 5%
- 2001年 IFN 週3回注射 +リバビリン(経口薬)24週間 ウイルス陰性化率(SVR) 30%
- 2003年 PEG-IFN 週1回注射 24〜48週間 ウイルス陰性化率(SVR) 20%
- 2004年 PEG-IFN 週1回注射 +リバビリン 48〜72週間 ウイルス陰性化率(SVR) 50〜60%
- 2011年 PEG-IFN 週1回注射 +リバビリン+テレプラビル(テラビック)(経口薬) 24週間 ウイルス陰性化率(SVR) 70〜80%
- 2013年 PEG-IFN 週1回注射 +リバビリン+シメプラビル(ソブリアード)(経口薬) 24週間 ウイルス陰性化率(SVR) 80〜90%
経口薬による抗ウイルス療法(IFNフリー)
- 2014年 アスナプレビル(スンペブラ)+ダクラスタビル(ダクルインザ) serotype 1 に 24週間 ウイルス陰性化率(SVR) 80〜90%
- 2015年 ソホスビル(ソバルディ) serotype 2 に 12週間 ウイルス陰性化率(SVR) 80〜90%
- 2015年 配合薬 :ソホスビル+レジパスビル(ハーボニー) 、リトナビル+パリタプレビル+オムビタスビル(ヴィキラックス) serotype 1 に 12週間 ウイルス陰性化率(SVR) 90〜95%
- 経口薬はIFNのように免疫を介さず、直接C型肝炎ウイルスに作用するため副作用は比較的少なく、肝硬変患者にも適応されます。しかし1クールの治療で450万円〜670万円と高価でまれに重篤な肝障害を起こすことがあり、治療前に遺伝子型や変異ウイルスの有無を調べた方が良いため専門医の元での治療が必要です。
- いずれの治療でもウイルス陰性化後の肝発癌に対する注意が必要です。
C型肝炎と肝細胞癌
- C型肝炎の最大のリスクは慢性肝炎から肝硬変を経て肝細胞癌を合併することです。
- 肝細胞癌の発生する機序は不明ですがC型肝炎はB型肝炎に比較して 病気の進行が早く、約3倍の肝細胞癌発生の危険性を持ち、ウイルス肝炎患者以外の一般人の約1000倍の危険性を持ちます。
- ほとんどの場合、肝硬変になってから肝細胞癌が発生しますので、定期的な腫瘍マーカー(AFP、PIVKAU)、画像診断(腹部エコー、腹部CT、腹部MRIなど)の検査が必要です。
C型肝炎の自然経過と肝癌への進展(慢性肝炎の治療ガイド2008より引用) |
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アルコール多飲者とHCV感染
- かってアルコール性肝障害といわれた病態:
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脂肪肝 |
肝線維症 |
肝硬変 |
肝細胞癌 |
HCV+ |
0-5% |
20-30% |
40-60% |
70-80% |
- 感染経路に関しては医療行為による場合も考えられますが、詳細はまだ十分解明されていません。アルコールがHCVの増殖や発癌に促進的に働いている可能性があります。
肝細胞癌の治療
- T.経皮的局所療法
エコーガイド下に細い針で腫瘍を直接穿刺し凝固壊死させる治療です。エタノール注入療法(PEIT)、マイクロ波凝固療法(PMCT)、ラジオ波焼灼療法(RF)などがあります。1回で確実な腫瘍壊死効果が得られることと、体に対する侵襲が少なく、健康保険の適応となったため今後はラジオ波焼灼療法(RF)が小さな肝細胞癌の治療の第一選択になると思われます。
- U.肝動脈塞栓術(TAE)
肝細胞癌を栄養する肝動脈内に細いカテーテルを挿入し、局所的に抗癌剤を注入したり腫瘍の血流を遮断したりします。
- V.外科的切除
肝機能が良好で単発性の時、根治目的に腫瘍を含めて肝臓の一部を切除します。
肝細胞癌のMRI画像 肝右葉上部にモザイク状の腫瘍を認める |
肝細胞癌の血管造影写真 多血管性腫瘍を認める |
肝動脈塞栓治療後の腹部CT画像 薬剤が腫瘍内に集積し腫瘍は縮小している |
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